高級住宅街に立地を決め、設計してくれる建築家が決まっても高級住宅は建ちません。何が「高級」か、について住む人自身が自分なりのイメージ、あるいは、こだわりを言葉やイメージとして設計する建築家に伝える仕事が待ち構えているのです。それは住宅の内部の構造や設備、別の言い方をすれば間取りにかかわるものです。
住宅は、80坪を境に使い勝手は変わります
住宅は、敷地面積と建ぺい率、容積率によって目一杯使える面積が決まります。この段階では、すでに建築家が決めていると仮定します。
この段階では「広いLDKが欲しい」「子供部屋は個室で」「生活リズムの違う夫婦が別寝室で」「玄関は吹き抜けで」「親たちが遊びにきた時のためにゲストルームが欲しい」「演奏のためにオーディオルームを」…など、さまざまな要望が出てきます。全部、希望を叶える可能性は、高級住宅ならばあります。しかし、日本の場合、住宅は80坪(264㎡)を境に日常メンテが随分変わります。それ以上だと家政婦さんや、定期的に業者を入れないと使い勝手が落ちてしまうといわれます。
国土交通省の平成30年度(2018年度)住宅経済関連データの「住宅ストックの姿」によると、全国の居住住宅は5210万戸。その平均の広さは29坪(94.4㎡)、ただし約半数を占める戸建持ち家に限ると40坪(133㎡)です。この戸建持ち家の平均の倍が、一つの境になります。
こだわりのある間取りをきちんと伝えるのは住む人の責任
住まいを高級にするには①設備や建具を全てハイグレードにする②広いウッドデッキやベランダを設けて解放感を楽しむ③照明にこだわり部屋ごとに照明をコーディネートする④おしゃれな吹き抜けは欠かせない⑤生活感を排除するために収納を大きくとる−−−−などが考えられます。
でも、全てを盛り込んだ住宅が完成し、いざ暮らしてみると後悔する、そんな人と家も結構あるのです。その幸福と後悔の分かれ目は、「間取り」をしっかりして作ったか、によります。例えば、収納を大きく取るのは良いですが、どの部屋のそばにどの程度の量の収納設備が必要かはっきりさせないといけません。それぞれの部屋の独立性を重んじるのは良いですが、独立性を重んじてばかりいると、やたらに廊下が長くなって行き来がタイヘンな間取りになってしまいます。
家庭にはそれぞれの家族の生活動線があり、家族構成の今後の変化も考えておかないといけません。目に見えない電気系統の配線やコンセントの配置は隠れた大切な問題です。電化製品をどこで多く使うのか、とかホームシアタールーム周りにいかに設備するか、ガレージにどのような配線が必要か、などは建築家といえどもなかなかわかりません。
建築家が、住む人の意見を取り入れるだけでも困る、聞いてくれないのも困ります。そのためにも、住む側も努力しなければなりません。